2017年6月13日 ニック・プライアー特別講演+パフォーマンス「声のアッサンブラージュについて:マイクロフォンから初音ミクまで」

ニック・プライアー特別講義+パフォーマンス:

「声のアッサンブラージュについて:マイクロフォンから初音ミクまで」

エジンバラ大学講師のニック・プライアー氏による、文化社会学的研究にもとづいた電子的でデジタルな声の媒介化についての特別講演会とパフォーマンスを開催します。

第1部ではまず、「声のアッサンブラージュについて:マイクロフォンから初音ミクまで」というタイトルのもと、声性についての研究を発表します。第2部では、日本滞在中にインスピレーションを得た3つの電子音楽作品、「The Voices of Akihabara」 「Jihanki(自販機)」「Tokyo After Hours」を演奏します。これらの作品は、フィールドワークで採集された音源をもとに制作されており、ふたつのテーマについて表現しています。ひとつは、ノイズと静寂が共振する都市のランドスケープにおける、人間と(たとえば自動販売機のような)非人間的人工物との継続的かつ豊かな関連性です。ふたつめは、日常生活のリズムを横切る文化と技術、そしてスタイルの重なり合いです。

 

日時:2017年6月13日(火)18:30〜20:00

会場:東京藝術大学千住キャンパス スタジオA

講師:ニック・プライアー[エジンバラ大学上級講師]

モデレーター:毛利嘉孝[東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授]

 

*参加無料、申し込み不要

*当日直接会場にお越しください。

*講演会は英語で行われます。毛利先生による日本語抄訳、解説、コメントおよび来場者との質疑応答を予定しています。

 

講義概要

「声のアッサンブラージュについて:マイクロフォンから初音ミクまで」
音楽の近代において、声はどこへ行くのだろうか。それはどのように合成され、分解され、構築され、再現され、顕在化させられるのか? 何がその兆候や、混乱や、論理や、運動を示すのか? その土台やイデオロギーはどこに位置しているだろうか? 特定の表現や情報としての存在根拠は何なのか、また何が期待されているだろうか?
本講演では、ポストヒューマニズムやアクター・ネットワーク理論などの議論を批判的に参照しながら、緊張関係、媒体化、快楽の次元としての歌声の領域を、以下のふたつの視点を往還しながら検討する。まずひとつは、人格とアイデンティティにまつわる解釈学的密度をもったものとして声を扱う視点である。ここでは声を出すことが、意味体系の中に場所を割り当てられた社会的な主体者となることとされる。もうひとつは、操作することのできる対象としての声である。ここでは、人間の能力を超えた域まで劇的に変換された声を聴くことが音響的快楽をもたらすという点について議論する。

実際、現代世界において、本質という概念が徐々に声から失われるにつれて、声はデジタルな取引、交換、そして共唱の対象となってきている。にもかかわらず、ポピュラー音楽がそのまさに人工性において新しい透明性を示すようなこの対象化のプロセスにおいても、人間の特質が完全に置き換えられることはない。機械的な声性によって誘惑されつつも、私たちはどうやら、決して肉体から離れることができないようだ。

 

講師略歴
ニック・プライアー Nick Prior

エジンバラ大学上級講師(社会学)、東京藝術大学客員研究員。
主な研究対象は、音楽社会学、デジタル技術、アーバニズム、日本のポップカルチャー、ピエール・ブルデューの社会理論。著書にPopular Music, Technology and Society: Digital Formations (Sage, 近刊)、共同編集書にDigital Sociology (Palgrave, 2013) があり、学術雑誌 Cultural Sociology の編者でもある。また、デジタル技術がポピュラー音楽の変容にどのように作用するのかをテーマとする論文や記事を多数執筆している。現在は、声の電子的、デジタル的媒体としての初音ミクについて研究している。研究活動の傍ら電子音楽家、コンピュータ音楽家としても活動している。