ポストメディア研究会の発足にあたって
Post Media Research Network (PMRN)
21世紀に入って情報技術、特にインターネットの発達と携帯端末やコンピュータ等デジタル技術の急速な進歩は、私たちのメディア環境を大きく変容させました。新聞やテレビなど従来のマスメディアは、パソコンなどの情報端末の中で融合、統合されつつあります。その一方で携帯端末の普及は社会の隅々にまでメディアを浸透させました。さらにゲーム機によって一気に広まった拡張現実(AR)、ヴァーチャルリアリティ(VR)、モノのインターネット(IoT)、そして人工知能(AI)は、身体、環境や技術の環境を一変させつつあります。こうした状況を、フェリックス・ガタリがかつて「ポストメディア」と名付けたメディア環境として理解することができるでしょう。この変化の影響は、現在ではメディアだけではなく社会や経済まで広く及んでいます。
こうした新しいメディア環境の到来に対して、メディア研究はどのように応えることができるでしょうか。近年メディア研究に大きなパラダイムシフトが起りつつあります。L. マノヴィッチたちのニューメディア・スタディーズやM.フラーたちのソフトウェア・スタディーズは、コンピュータのメディア性、アプリケーションやグーグルなどの情報サービスの政治・経済・文化的特徴に焦点を当てることにより、インターネット以降のメディア環境の分析に新しい視座をもたらしつつあります。またL. ブライアントやG.ハーマンなどが提唱する「思弁的実在論」「新しい唯物論」、B. マッスミなどのメディアの物質性や「情動」に対する注目は、これまでのメディアの受容消費、イデオロギー分析、権力に対する新しい分析のための語彙を生み出しています。こうした動向に加えて、人間と機械、自然と文化、個人と社会/環境といった二分法を越える思考としてのB. ラトゥールのアクターネットワーク理論やG.シモンドンの個体化論の再発見、D. ハラウェイのサイボーグフェミニズム、そして何よりガタリとともに思考したG.ドゥルーズの再評価など、現在のポストメディア環境を予見したような議論に再び注目が集まっています。
ポストメディア研究会(PMRN=Post Media Research Network)は、こうした理論的な動向に対応しつつ、特に日本とイギリスの創造産業の発展を検討しながら、新しいメディア理論の構築を目指します。具体的には、4年間に渡って定期的に公開シンポジウムや研究会を通じて基本的な情報を共有するともに、具体的な事例を検証しつつ、(ポスト)メディア理論の発展に貢献することを目指しています。また必要に応じて、さまざまなメディア実践にも取り組んでいきたいと考えています。
研究会はあくまでも、開かれたネットワークとして構想されています。多くの方の参加をお待ちしています。
毛利嘉孝
※この研究会は、2024-2027年度科学研究費基盤研究B「調査的美学に向けて:デジタルメディア時代の社会的アート・政治・協働性」(研究代表者:毛利嘉孝、課題番号:24K00030)の研究活動の一環として組織、運営されています。